「Loveだぜ 先生さん!」


 皆さんの中に、ちょっといけない恋をした人はいないだろうか? 例えば妻子ある男性を好きになってしまったとか、彼氏のいる女の人に恋してしまったなど。僕の周りにそういう人はいないのだが、学校の先生に恋してしまった友人が2人いる。
 昔、ジャニーズの滝沢秀明と人気女優松嶋奈々子主演の「魔女の条件」なるテレビドラマがあった。先生と生徒という2人が恋に落ちてしまうという内容だ。
 更に人気脚本家、野島伸司による「高校教師」なるドラマもあった。こちらは2回もドラマ化され、人気を博した。ちなみに僕は2本目の方が好きでした。
 2つのドラマに共通して言える事は「生徒と先生の恋は禁断で、世間的には認知されないもの」という事。聖職(?)である先生は、決して教え子と恋に落ちてはいけない。そんな世間倫理が根強いという事だろう。
 んがしかし、実際の恋というのは何ともホンワカしていて、外から見ていた僕は、
「別にいけない事なのか?」
 などと思ったものである。それはまあ、結果として成功せずに淡い恋で終わってしまったからかもしれないが。成功していたら、当時問題になっていたかもしれない。
 ちょっと前置きが長くなってしまったが、今回は先生に恋してしまった僕の友人の事を書いていこうと思う。


 まず1つ目の恋物語。それは僕が中学の時の事である。
 中学生は恋にしても何にしても多感な時期である。ちょうどその頃、女の子のスカートの丈が短くなりだした頃で、当時の男性諸君は困っていた。かくゆう僕も目のやり場には困っていた。
 そんな僕の友人にF君という奴がいた。彼は今でも交流があり、今は立派な警察官として働いているのだが、彼は恋をするとそれしか見えなくなるという特徴(?)を持っていた。要するに熱しやすく冷めにくい。そんな感じの男だったのである。ちなみに、それは今現在でもまったく変わっていない。
 そんな彼が恋したのがある女性の先生だった。歳は20代中盤くらいの人だったと思う。色黒の健康的な女性で、髪の毛はウェーブがかかっていて、背は小さめ。明るい性格で女子からの人気も高かったという、ある意味年頃の男子が恋するには理想的な女性だった。
 で、そんな先生さんの趣味がテニスだった。それがこうじて女子テニス部の顧問をやるという、「先生になりたてですんごく頑張ってる!」という感じがよおく分かる先生さんだった。(実際になりたてだったのだが)
 話をF君に戻そう。彼もテニスが好きだった。別に先生さんが好きだからやり始めたというわけではなく、元々好きだったのだが、それがいい方向に向いた。たまに女子と一緒にテニスをする事もあったので、それがきっかけでF君は先生さんに完全に魅了されてしまったのである。
 今でも熱病に冒されやすい彼である。少年期の浮かれっぷりと言ったら、見ているこっちが恥ずかしい程だった。
「この恋は一生物だよぉ」
「俺、この恋が成功したら死んでもいい」
 などと、何とも子供らしい事をペラペラと語っていたのである。
 だが、F君は行動派ではなかった。しかも既に熱病に冒されていた為、ろくに先生さんと話す事もできなかった。先生さんもF君の熱病に気付く事も無く、しばらくの間は生殺しの状態が続いた。
 だがついに、F君は作戦を決行した。それが、映画作戦である。
 まあ、タイトル通りの作戦である。当時、映画館で賑わっていたのがブルース・ウィリス主演のアクション映画「ダイハード3」であった。F君はその映画に先生さんを誘おうとしたのである。
 が、当時は携帯電話なんて普及していなかった。ので、その作戦を決行するには先生さんを直接誘う以外に無かった。だが、F君自身は恥ずかしくてどうしても実行に移せなかった。そこで僕の出番である。
 僕がF君が書いたラブレター(そんな大それたものではないと思うが)を先生さんに渡す事になったのである。僕は先生さんに恋してなかったので(勿論嫌いではなかったが)、別に恥ずかしくもなくその頼みを受け入れた。
 ある日の事。僕はF君から預かった手紙を手にして、先生さんのいる職員室へと向かった。
「んっ? どしたの、笹乃君」
 先生さんは何も知らない呑気(?)な顔で僕を見る。
「先生。これ、是非読んで欲しいんです」
 と、僕はF君が寝ずに書いた(と思う)ラブレターを先生さんに手渡した。先生さんは小首を傾げて、
「これ、何?」
「僕の友人のF君が先生と一緒に映画に行きたいんだそうです」
「えっ? 映画? ‥‥うーん」
 先生さんは困った顔して、手紙を読んだ。僕はそれを読まなかったのだが、多分似たような事が書いてあったのだろう。先生さんが迷うのも無理は無い。
 僕は正直に言うと、絶対にOKなんてもらえないと思った。いくら中学生でも分かる。先生と生徒は恋仲になんてならないのだ、と。というか、F君みたいな生徒を、先生さんが本気にするはずがない。
 先生さんはしばらく黙り、それから顔を上げ、
「うん、分かった。行くわ。でも、笹乃君も一緒にね」
 と何とも可愛い笑顔を見せたのである。
 意外だった。本当にOKするとは思わなかった。だが、1つ引っかかった。それは僕も一緒だ、という事である。
「えっ? 僕も行くんですか?」
「うん、そうよ」
 先生さんは飄々と答える。この時点で僕は悟っていた。ああっ、この人はデートなんて大仰なものだとは思っていない、と。
 僕はそんな先生さんに曖昧に応えて、その場を後にし、F君にありのままを伝えた。
 するとF君は、
「ええっ! 何で笹乃君も一緒なんだよ!」
 と、当然の態度を見せた。おそらく、本人は先生さんと2人っきりのデートを想像していたのだろう。そう思っていたのは僕もだった。
「そんな事言われても‥‥。先生がそう言うんだもん。デートだと思ってないんじゃん?」
「そうか、思ってない‥‥ってそれじゃダメじゃねえかよ!」
「それを僕に言わないでくれ。とにかく、先生さんは3人で行くつもりだよ」
「うーー‥‥」
 F君は本気で悩んだ。が、悩んだところでどうにもならない。F君本人は熱病に冒されていて先生さんとまともに話もできない。結果、3人で行く事になったのである。


 デート当日の日曜日。僕とF君は一足先に最寄りの駅に来ていた。待ち合わせ場所である。
 例え3人でのデートだったとしても、F君の緊張は大理石以上の堅さだった。
「せせせせ先生。来るのかなぁ?」
 お前はスキャットマン・ジョンか、と思われる程どもりながらF君は先生を待った。
 僕は切りがいい所で帰ろうと思っていた。やっぱし恋路の邪魔をするのは良くないな、と子供ながらに考えていたのである。
 が、展開は予想もつかない方向に進む。先生さんは来なかったのである。前述したが、当時は携帯電話なんて無い。先生さんの自宅の番号も知らない。連絡のしようがなかった。
「先生‥‥。何で来ないんだろ?」
「さあ〜」
 待つ事数時間、先生さんは来なかった。結局、僕とF君は2人だけで映画を見て、2人だけで食事をして家に帰ったのである。
 F君は終始がっかりしていた。それはそうだろう。憧れの先生とデートする約束が果たせなかったのである。その気持ちも理解できた。
 しかし、この時の映画鑑賞がきっかけで、僕はその後ズボズボと映画道にハマる事になったのだから、人生分からないものだ。


 次の日。僕はF君と共に職員室の前に来た、理由は勿論、昨日のデートをすっぽかした理由を聞く為である。
 ここでもF君はその大役を僕に任せた。まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。僕は強く頷き、職員室に入った。
「本当にごめん!」
 出会って早々、先生さんはそう言った。僕が事情を聞くと、
「ちょっとお仕事が入っちゃってね、どうしても行けなくなっちゃったのよ」
 そう先生さんは告げた。
 先生と生徒がデートなんておかしい、と先生さんが思っていたかは知らないが、本当にすまなそうに両手を合わせた。僕はダイハード3を観れただけで幸運だと思っていたので怒る気も無く、
「F君には何て言うんですか?」
 と聞くと、先生さんは引き出しの中から一枚の手紙を出した。
「これ渡してくれない? 謝罪の気持ちが書いてあるから」
 と言ったのである。なるへそ、手紙には手紙で返すのか。そう僕は関心しながら職員室を後にした。


 その手紙の内容は僕も知らない。ただ、その後F君は先生さんには興味を無くしてしまった。熱しやすくして冷めにくいF君だったが、さすがに今回の出来事は堪えたらしい。これは僕の推測だが、あの手紙にはオブラートに包まれながらも辛辣な事が書いてあったに違いない、と睨んでいる。
 ちなみに彼はこの恋愛以前に同級生の女の子と付き合っていたのだが、ある事件(これは僕もよく知らない)をきっかけにお互いが大嫌いになり、先生との恋愛の時に
「これが俺にとって最後の恋愛になる」
 とまで豪語していた。が、結局それも叶わず。彼は今でも一人身である。Fよ、恋をしろ!
 とにかく、これが僕が見た初めての先生に恋しちゃう君物語だったのである。


 さて、2つ目に行こう。こちらは高校生の時である。
 今回の主役はB君である。彼も熱しやすく冷めにくいタイプの男子だったが、F君と決定的に違ったの、相手は旦那も子供までいる人妻さんだったという事である。
 人妻と聞くだけで何やら淫らな想像をしてしまう方は、今すぐ最寄の病院に行った方がいいと思うが、今回登場する人妻先生さん(これもまた罪な言葉だ‥‥)は、そんなにえっちいものじゃございません。
 今回の先生さんは前の先生さんとは違い、30過ぎで家庭に入って落ち着いちゃいました≠ニいう匂いがしていた。でも、スタイルは良かったし、母性というのがすごくあった。一言で言えば
「可愛くて優しそうな年上先生さん」
 だったのである。
 そんな先生さんに恋したのがB君であった。彼は先生さんに恋する前にある同級生の女の子とお付き合いをしていた。が、その恋に終止符が打たれ、非常に落胆していた。
 どんな事情で分かれたのかは知らないが、とにかく落胆していた。
 ちなみにちょっと話が横道に反れるが、彼はその失恋を経験する前にその思い出を小説にして書いた事があった。そして、その原稿を僕に渡して、
「これ、ワープロにして印刷してくれないかな?」
 と頼んだのである。当時、既に僕はワープロで小説を書いていたので、いいタイピング練習になるだろうと思って、それを快諾した。
 今はもう、その原稿は無くなってしまっているが、もう本当に恥ずかしい内容の話だった。中身は実に単純な男女の恋愛なのだが、恋した本人が原稿を書いてる為、一言で言えば甘くて甘くて背中が痒くなる、のである。
 結局、その原稿は完成したのだが、その後マジマジと読んだ本人が赤面してしまい、どうしようもなく悶絶した、なんて事があった。あの原稿はまだ残っているのだろうか? 残ってないだろう。
 では、話を元に戻して先生さんとの恋である。前の女の子とどういう理由で別れたのかは知らない僕なのだが、先生さんに恋した理由も謎だった。でもまあ、恋するのに理由なんて必要無いのだから、いいのだろう。
とにかく、どんな事があったのか知らないが、気がつけばB君は先生さんを好きになっていたのである。


 が、こっちは前の話に比べて面白い展開は見せない。まあ、それはそうであろう。旦那と子供もいる女性が生徒のアタックに応えるはずがない。10代の男子とデートする歳でもないし、そんな事実が旦那に見つかりでもしたら、血で血を洗う抗争は免れなかった。
 そこんところをB君も分かっていたらしく、彼は積極的な行動に出なかった。結果から話してしまうと、この話はそれでおしまいである。
 だが、この恋愛話にはちょっとした後日談のようなものがある。それは僕が高校を卒業する時にその先生さんからプレゼントと称してネックレスをもらったのである。これにB君は憤慨した。


 順を追って話そう。それは僕が大学の推薦に通った日の事である。僕は学校に来るなり、
「先生! やりゃしたよ! 大学受かりましたぁ!」
 と先生さんに報告した。先生さんと握手して、喜びを分かち合った。その時、お祝いとしてネックレスをもらったのである。まあ、値段にしたら1000円もしない物だったと思うが、結構嬉しかった。
 その時のB君の怒りようは並みではなかった。
「何で笹乃君だけそんなのもらってんだよぉ! そんなの不公平じゃねえか!」
 と。
 実は僕は大学の推薦が決まったらお祝いに何かくださいと先生に前からねだっていたという裏事情があった。そこに深い意味は無く、ただ記念という意味だった。更に言うと本当に何かがもらえるとも思っていなかった。
 だが、もらってしまった。B君はそれに納得しなかった。殴られるなんて事は無かったが、ものすごーく悔しがっていた。
「僕も欲しい。ねえ、僕にもくれるように言ってよぉ」
 B君は粘った。僕はその事を先生さんには伝えなかった。もらったのは先生の好意なんだし、そこから更にねだるというのはやっぱし失礼である。で、B君もその事を先生には言わなかった。
 結局何も言わず、何ももらわないまま、彼は高校を卒業していったのである。きっと、先生さんはB君の気持ちなど知りもしなかっただろう。ああっ、ミゼラブル(無情)。
 ちなみにそのネックレスはもう手元に無い。その後ずっと付けていたのだが、ある日チェーンが切れてしまい、どこかに行ってしまったのである。


 と、ツラツラと話してきたがどうだろう? (何が?) 子供の頃は先生が憧れだったりする事はそんなに珍しい事ではない。えてして、男の子の初恋なんていうのは学校(もしくは幼稚園)の先生だったりするものである。
 紹介した2つの恋心もそう言えばそうである。だが、両方共子供というにはちと成長しすぎていたし、もしもその恋が実っていれば実録版「魔女の条件」になっていたかもしれない。それを考えると両方とも成功しなくて良かったな、なんて思うのである。
 皆さんも、先生さんに恋する時は覚悟しましょう。
                                                                             終わり


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